善悪二神論の論理的優位性

  • 善悪二神論*1は、神義論*2の問題を生じさせない点で、唯一神*3よりも世界の説明として優れている。
  • 善悪二神論は、自由意志の問題*4についてもすっきりした回答を与える。すなわち、善なる神と悪なる神の勢力の拮抗が世界に複数の選択肢を生み出し、人間はその選択肢の中で自由意志で自らの行動を決定するものと理解できる。
  • 善悪二神論の立場からは、天国や地獄の意義、終末における救済の意味も明快である。天国は善なる神に従ったものが死後行く場であり、地獄は悪なる神に従ったものが死後行く場である。終末は、善なる神の悪なる神に対する最終的な勝利である。
  • こうして考えると、キリスト教神学の論点の多くは、ゾロアスター教の概念を唯一神論に無理やり導入した結果生じた矛盾に由来するものであることが分かる。
  • 善悪二神論の難点は、「なぜ人間は悪なる神ではなく善なる神に従うべきか」を確証できないことである。善悪二神論においては善なる神の勝利は必然ではなく、闘争の結果勝ち取られるべき目標である。もし悪なる神が勝利したらどうなるのか?善なる神に従った人々はみな地獄に落ちてしまうのではないか?

*1:世界は善なる神と悪なる神との抗争の場であるという考え方。ゾロアスター教が典型。

*2:「神が全知全能であるなら、どうして世界に悪があるのか」を説明するための議論。

*3:ここでは、キリスト教ユダヤ教イスラム教のような、世界は全知全能の唯一神が創造し、コントロールするという考え方のこと。なお、唯一神論という言葉は、キリスト教において三位一体説を否定する立場を指すものとして使われることもある。

*4:ここでは、神が予め全てを決定するのであれば、人間には自由な意思は認められないのではないかという問題。