刑法に「聖域」はない

  • 業務上過失致死罪における「業務」とは、「社会生活上の地位に基づき反復継続して行う行為であって、生命身体に危険を生じ得るもの」一般を意味し、いかなる職業もその対象となり得る。
  • もっとも、かつては業務上過失致死罪には事実上の「聖域」があった。典型が医療であり、検察は、医療過誤に対して同罪を適用することについては従来謙抑的であった。
  • しかしながら、近年検察は、このような「聖域」を認めない方針に転換しつつある。医療過誤は勿論のこと、空港管制におけるミスや薬品行政における過ち(薬害エイズ事案)についてまで、同罪の適用対象は拡大の一途をたどっている。
  • だが、依然として刑法の適用されない「聖域」であり続けている分野が一つある。それは司法自身である。誤判によって死刑判決が下され、死刑が執行された場合、関係した裁判官及び検察官は、本来、殺人罪に問われなければならない(そして弁護士は業務上過失致死に問われなければならない)。誤判によって被告人が懲役刑に処された場合も、関係した裁判官及び検察官は、本来、監禁罪に問われるべきである。
  • 裁判手続を経ているというだけで、関係者が当然に免責されると考える根拠は、現行法令上、存在しないのであるから、少なくとも検察内部では、このような事案の立件可能性について真剣な検討が行われなければならない。
  • われわれ国民は、検察審査会制度等を通じて、検察が不当に身内に甘くなることのないよう、厳に監視する必要がある。