天皇とエンペラー

  • 明治維新から一貫して、天皇の英訳はEmperorである。しかし、この訳語はもはや時代錯誤であり、外国人に誤解を与えるものであるから、早急に改めるべきである。
  • 19世紀末の国際情勢に照らせば、政府が天皇をEmperorと訳したことには合理性があった。当時はイギリスもフランスもドイツもロシアもいずれもEmperorを戴いていたからである。対外的対等性を標榜するため、「我が国にもEmperorあり」と主張するのは、むしろ自然なことであった。
  • しかし、21世紀の今日においてなお、日本にはEmperorが存在すると称することは、歴史的経緯を知らない海外の一般人に極めて奇異な印象を与えている。
  • 一部の日本人(ネット右翼?)は、EmeprorとはKingの「上級バージョン」だと誤解している。その結果、Emperorという語を捨てて天皇をKingと称することは「格下げ」であり、好ましくないと考えているようである。
  • しかし、英語としてのEmperorとKingの違いは質的なものである。両者は一方が他方より偉いという関係ではなく、全然別ものなのだ。
  • Emperorとは文字通り「Empireの支配者」であり、Empireとはアッシリア帝国ローマ帝国のような「複数民族の武力による統合体」である。Emperorという語は、武断的イメージを強く帯びている。英語を母国語とする人がEmpeorという語を聞いて抱く一般的イメージは、甲冑を着て剣を持った軍の統率者である(ちなみに、スターウォーズの「暗黒皇帝」も、原語では単にEmperorである)。日本人の多くが天皇に対して抱く、儀礼的・祭祀的イメージとはおよそかけ離れているのである。
  • 民族統合の象徴として天皇を捉えるのであれば、適切な訳語は明らかにKingである。ただ、日本人が天皇に対して抱く独特の祭祀的イメージがKingでは抜け落ちてしまうというのであれば、端的にTennouと訳すべきであろう。